『ひとりガソゴソ飲む夜は』

目黒次は、『ひとりガソゴソ飲む夜は』です。これは夕刊フジに連載したエッセイで、2005年9月に角川書店から単行本になって、2010年1月に角川文庫と。酒が中心のエッセイですね。イラストがはた万次郎さんなんだけど、これは椎名の指名?

椎名うん。おれ、ファンなんだよ。だから夕刊フジに連載が決まったときにお願いした。だから単行本も文庫もはた万次郎さんだよね、イラストは。

目黒あと、日本に来たアメリカの青年が、一度でいいから自動販売機でビールを買ってみたかったという話が出てくるんだけど、椎名はいろいろな国に行っているよね。どこの国にも日本みたいに自動販売機が並んでいるなんてことはないの?

椎名ないよ。

目黒中国とか台湾とか韓国も?

椎名建物の中ならある。つまり管理者がいるところだよね。でも日本みたいに、誰もいない峠とかにあるなんてことはない。これには二つの理由がある。

目黒なあに?

椎名犯罪のターゲットになるだろ。中の金も商品も持っていかれちゃう。

目黒もう一つの理由は?

椎名発展途上国の場合は、自動販売機を作ったり設置したりする資金力がない。

目黒なるほど。日本は資金もあって治安もいいからか。

椎名そうだな。

目黒外国への長い旅をしていると日本食が食べたくなるって書いているんだけど、そういうときは具体的に何を食べたくなるの?

椎名外国にある日本食ってだいたいまずいんだ。まあまあ食べられるのは焼きそばか焼き飯。モンゴルのラーメン屋なんて、日本の荻窪で修業したというから期待したよ。でも出前をしてただけなんだって(笑)。

目黒いやいや、そういう話じゃなくて、何を食べたくなるかという話。

椎名それはラーメンとカツ丼だよ。

目黒以前、もうラーメンもカツ丼も食べなくなったと言ってなかったっけ?

椎名日本にいるときは食べないけど、外国にいくと食べたくなる(笑)。

目黒なるほどね。あとは、そうだ。京都で素封家の旦那さんに連れられて四軒ハシゴする話が出てくるんだけど、生ビール五杯と赤ワインをグラスで五〜六杯。ブランデーをストレートで八杯。日本酒をお銚子二本、とすごいんだよ。べろんべろんに酔っぱらうんだけど、珍しいよね椎名がこんなに呑むのは。

椎名うまいんだよ京都の人は。

目黒何が?

椎名すすめるのが。知らない間に呑んじゃってる。で、どんどん店を移っていくから、帰りますという切れ目がない。そのうち酔ってくるから、ホテルがどこかもわからなくなって、その人についていかないと帰れなくなる(笑)。

目黒その旦那って職業は何なの?

椎名呉服屋さん。人に奢るのが好きなんだね。飲みにいく前に酵素風呂に入ったんだけど、二十分も入っていると、体中が軽くって、ビールがうまいんだ。

目黒酵素風呂というのがあるんだ。

椎名それもその呉服屋の旦那が奢ってくれた。

目黒そうやって人に奢るのが楽しい、という人がいるんだろうな。

椎名最初にビールをガーッと呑んだから、それでぐでんぐでんになったというのもあるな。

目黒あとね、これ、本当かなあ。

椎名なに?

目黒国際線で、東京を午前十一時に出る便に乗ると、すぐに食事が出て、アルコールのサービスがあって、で、午後一時ごろになると「全員おとなしく寝る」状態にされるって本当?

椎名本当だよ。

目黒夜の便ならわかるけど、昼の便だよ。まだ外はまっ昼間だよ。それでも暗くしちゃうの?ま、読書灯をつければいいんだろうけど。でもヘンだよね。

椎名そうなんだから仕方ないだろ。

目黒どうしてそんなことするの?

椎名早く食事を出して、あとはゆっくりさぼりたいんじゃないの(笑)。

目黒本当かなあ(笑)。

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